6 運動方程式と位置エネルギー
この章では, ニュートンの運動方程式
\[ m\frac{d^2\mathbf{r}}{dt^2} = \mathbf{F} \]
を, 具体的な問題でどう解くかを整理する. 第3章では力と運動の一般論を述べたが, ここでは 1 次元運動, 2 次元運動, 保存力と位置エネルギーへ進み, 実際に位置 \(x(t)\) や軌道 \(\mathbf{r}(t)\) を求める見方を身につける.
6.1 はじめに
運動方程式を解くときには, まず座標軸を決め, どの力がどの方向に働くかを書き, そのうえで初期条件を入れる. この手順は単純であるが, 力学のほとんどの問題で基本になる.
6.2 この章で扱うこと
- 1 次元の運動方程式
- 等加速度運動と単振動
- 抵抗力のある運動
- 2 次元での成分分解
- 仕事, 保存力, 位置エネルギー
6.3 第7週: 1 次元運動
6.4 予習で読む箇所
- 第4章 4.1.1-4.1.4
- 「物理のための数学: 同次線形微分方程式の解き方」
6.5 輪講での読み方
第4章では「運動方程式を解く」ことが主役になる. 解法の手順, 初期条件の入れ方, グラフの読み方を本文の流れに沿って確認する.
6.6 1 次元運動の基本 (教科書4.1章)
1 次元では位置を \(x(t)\) と書き, 運動方程式は
\[ m\frac{d^2x}{dt^2} = F(x,t) \]
となる. 力が位置や時刻にどう依存するかを決めれば, あとは微分方程式として解けばよい.
6.6.1 解くときの基本手順
- 座標軸の正方向を決める.
- 働く力を列挙する.
- 運動方程式を書く.
- 初期条件を入れて積分定数を決める.
- \(x\)-\(t\), \(v\)-\(t\) グラフを描く.
- 必要ならエネルギー保存の有無を見る.
6.6.2 力が働かない場合
力が 0 なら
\[ \frac{d^2x}{dt^2} = 0 \]
である. よって速度は一定で,
\[ v(t) = v_0,\qquad x(t) = x_0 + v_0(t-t_0) \]
となる. これは第1法則に対応する.
6.6.3 力が一定の場合
一定の力 \(F\) が働くとき,
\[ m\frac{dv}{dt} = F \]
と書ける. ここで
\[ \alpha = \frac{F}{m} \]
と書ける. このとき
\[ v(t) = v_0 + \alpha t,\qquad x(t) = x_0 + v_0 t + \frac12 \alpha t^2 \]
である. 自由落下や等加速度運動はこの型に入る.
6.6.4 単振動
ばねの復元力
\[ F = -kx \]
を考えると, 運動方程式は
\[ m\frac{d^2x}{dt^2} = -kx \]
すなわち
\[ \frac{d^2x}{dt^2} + \omega^2 x = 0,\qquad \omega = \sqrt{\frac{k}{m}} \]
となる. 一般解は
\[ x(t) = C\cos\omega t + D\sin\omega t \]
であり, 振幅 \(A\) と初期位相 \(\delta\) を用いて
\[ x(t) = A\sin(\omega t + \delta) \]
とも書ける.
6.6.5 1 次元の位置エネルギー
1 次元の保存力 \(F(x)\) に対して, 位置エネルギーを
\[ U(x) = -\int_c^x F(x)\,dx \]
と定義する. このとき
\[ \frac{m}{2}v(t)^2 + U(x(t)) = \frac{m}{2}v(0)^2 + U(x(0)) \]
が成り立つ.
6.6.6 授業での補足
- 第4章は「運動方程式を解く章」であり, 1 次元での手順は高次元でもそのまま基本になる.
- 力が働かないときは, 積分定数が初期位置と初速度に対応することを確かめる.
- 力が一定のときは自由落下が典型例であり, 既知の公式が運動方程式から再現される.
- 単振動では
\[ T = \frac{2\pi}{\omega} = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} \]
で周期が決まる. - 単振り子も, つり合い点の近くで
\[ \sin\theta \simeq \theta \]
と近似すれば, 単振動に帰着する.
6.6.7 数学補足
この節では 2 階の線形微分方程式が初めて本格的に現れる. 詳しい解き方は教科書の「同次線形微分方程式の解き方」を参照してほしい.
6.6.8 復習で確認したいこと
- 1 次元の運動方程式を立てる手順を言えるか.
- 自由落下, 等加速度運動, 単振動の 3 つを区別できるか.
- 単振動の周期
\[ T=\frac{2\pi}{\omega}=2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} \]
を出せるか. - 位置エネルギーの定義と力学的エネルギー保存則を言えるか.
6.7 第8週: 抵抗力と 2 次元運動
6.8 予習で読む箇所
- 第4章 4.1.5
- 第4章 4.2.1-4.2.2
- 「物理のための数学: 双曲線関数」
6.9 輪講での読み方
ここでは「保存しない力」と「2 次元のベクトル運動」が出会う. 空気抵抗は保存力でないこと, 2 次元では成分ごとに方程式を立てることを確認する.
6.10 抵抗力のある運動 (教科書4.2章)
速度に比例する抵抗力を受ける落下では
\[ m\frac{dv}{dt} = mg - m\gamma v \]
となる. この式を解くと
\[ v(t) = \left(v_0 - \frac{g}{\gamma}\right)e^{-\gamma t} + \frac{g}{\gamma} \]
を得る. 時間が十分経つと
\[ v(t) \to \frac{g}{\gamma} \]
となり, この値を終端速度という.
抵抗力が \(v^2\) に比例する場合には
\[ m\frac{dv}{dt} = mg - m\gamma v^2 \]
となる. こちらは非線形であり, 解法は少し重くなるので, まずは式の形と物理的意味を押さえる.
6.11 2 次元運動 (教科書4.3章)
2 次元でも基本は同じである. 位置を
\[ \mathbf{r}(t) = (x(t), y(t)) \]
と書けば,
\[ m\frac{d^2\mathbf{r}}{dt^2} = \mathbf{F} \]
を成分ごとに
\[ m\frac{d^2x}{dt^2} = F_x,\qquad m\frac{d^2y}{dt^2} = F_y \]
と書いて解けばよい.
6.11.1 斜面上の運動
斜面方向を \(x\), 法線方向を \(z\) と取ると,
\[ m\frac{d^2x}{dt^2} = mg\sin\theta,\qquad m\frac{d^2z}{dt^2} = N - mg\cos\theta = 0 \]
となる. 2 次元や 3 次元の問題でも, 座標軸をうまく選べば 1 次元の方程式に分解できることが多い.
6.11.2 2 次元でのエネルギー
保存力
\[ \mathbf{F} = -\nabla U(x,y) \]
が働くなら,
\[ \frac{d}{dt}\left(\frac{m}{2}v^2 + U\right) = 0 \]
である.
6.11.3 授業での補足
- 保存しない力の代表例として空気抵抗を扱う. 速度比例抵抗では終端速度が現れる.
- 速度 2 乗に比例する抵抗力では非線形になり, 教科書では \(\tanh\) を使って整理する.
- 2 次元では
\[ m\frac{d^2\mathbf{r}}{dt^2}=\mathbf{F} \]
を基底に沿って分解して解く. 斜面運動はその典型例である. - 2 次元投射運動に抵抗力が加わると, 軌道はもはや放物線ではなくなる. ここで力がベクトルであることがはっきり効いてくる.
6.11.4 数学補足
抵抗力が \(v^2\) に比例する場合には
\[ \sinh x,\quad \cosh x,\quad \tanh x \]
のような双曲線関数が自然に現れる. 詳細は教科書の補足を参照してほしい.
6.11.5 復習で確認したいこと
- 抵抗力が保存力ではない理由を説明できるか.
- 抵抗力が \(v\) 比例と \(v^2\) 比例で何が変わるか説明できるか.
- 2 次元運動では成分分解が必要だとわかっているか.
- \(\mathbf{F}=-\nabla U\) の形が出る意味を説明できるか.
6.12 第9週: 仕事と位置エネルギー
6.13 予習で読む箇所
- 第4章 4.3
- 第4章のまとめ
6.14 輪講での読み方
この週は第3章の「仕事 = 運動エネルギー変化」と, 第4章の「保存力なら位置エネルギーが定義できる」をつなぐ. 式の流れを追いながら, 何が新しく導入されるかを整理する.
6.15 仕事 (教科書4.4章)
力と変位が平行なら \(W = Fs\) だが, 一般には
\[ W = \mathbf{F}\cdot \mathbf{s} \]
である.
6.15.1 微小仕事と線積分
微小変位 \(d\mathbf{r}\) に対して力がした微小仕事は
\[ dW = \mathbf{F}\cdot d\mathbf{r} \]
である. したがって, 点 A から点 B まで動く間の仕事は
\[ W_{A\to B} = \int_A^B \mathbf{F}\cdot d\mathbf{r} \]
で与えられる.
6.16 保存力と位置エネルギー (教科書4.5章)
仕事が経路によらず, 始点と終点だけで決まる力を保存力という. 保存力では
\[ \oint \mathbf{F}\cdot d\mathbf{r} = 0 \]
が成り立つ. このとき, 位置エネルギー \(U(\mathbf{r})\) を用いて
\[ \mathbf{F} = -\nabla U \]
と書ける.
位置エネルギーを使えば, A から B までの仕事は
\[ W_{A\to B} = U(A) - U(B) \]
となる. したがって, 仕事と運動エネルギーの関係
\[ W = \Delta T \]
と合わせると,
\[ T + U = \text{const.} \]
すなわち力学的エネルギー保存則が得られる.
6.16.1 非保存力
摩擦力のように, 同じ場所でも進行方向で力の向きが変わるものは保存力ではない.
6.16.2 授業での補足
- 仕事は内積で書くことで, 力と変位の向きが一致しない場合も統一的に扱える.
- 微小仕事を積み上げたものが線積分であり, 経路に沿った総仕事を与える.
- 保存力では
\[ \oint_C \mathbf{F}\cdot d\mathbf{r} = 0 \]
が成り立ち, 位置エネルギーが定義できる. - 重力は保存力であるが, 摩擦力は非保存力である. 位置エネルギーが導けるかどうかが分かれ目になる.
6.16.3 数学補足
保存力の判定として
\[ \nabla \times \mathbf{F} = 0 \]
が使われることがある. ここでは詳しいベクトル解析には立ち入らず, 保存力なら位置エネルギーが定義できる, という点をまず押さえればよい.
6.16.4 復習で確認したいこと
- 仕事はなぜ内積で書けるのか説明できるか.
- 線積分の物理的意味を説明できるか.
- 保存力の条件を
\[ \oint \mathbf{F}\cdot d\mathbf{r}=0,\qquad \nabla\times\mathbf{F}=0 \]
の 2 通りで言えるか. - 位置エネルギーが「経路によらない仕事」から生まれることを説明できるか.