4  速度と加速度

この章では, 前章で整えた位置の記述に時刻を導入し, 運動を記述する. 前章では, 位置の表し方, ベクトル, 座標系, 多変数関数の変化の記述を扱った. ここではその続きとして, 軌道, 速度, 加速度, 時間微分, 積分, 次元解析を考える.

4.1 はじめに

物体の位置が時刻 \(t\) とともに変わるとき, 位置ベクトルは

\[ \mathbf{r} = \mathbf{r}(t) \]

と書ける. こうしてはじめて, 位置の記述は運動の記述へ進む.

4.2 この章で扱うこと

  • 速度ベクトル
  • 加速度ベクトル
  • 速度と加速度の積分
  • 微小量の足し合わせとしての積分
  • 次元解析

4.3 第1章とのつながり

前章では

\[ df = \nabla f \cdot d\mathbf{r} \]

という形で, 空間内の微小変化を記述した. この章では, まず位置を時刻の関数 \(x(t), y(t), z(t)\) とみなし, そこから速度と加速度を導入する.

たとえば, 位置ベクトルの時間変化を考えると, 速度

\[ \mathbf{v} = \frac{d\mathbf{r}}{dt} \]

が定義される.

第1章の内容を用いると, 位置に依存する量 \(f(\mathbf{r}(t))\) の時間変化は, チェーンルールによって

\[ \frac{d}{dt}f = \mathbf{v} \cdot \nabla f \]

と書ける. これは, この章の運動学を統一的に見るための補足的な見方である.

4.4 第3週: 速度と加速度

4.5 速度 (教科書2.1章)

4.5.1 定義(1次元)

1次元で位置を \(x(t)\) と書くと, 平均速度は

\[ \bar{v}(t) = \frac{x(t+\Delta t) - x(t)}{\Delta t} \]

である. 時間間隔 \(\Delta t\) を 0 に近づけると, 瞬間速度

\[ v(t) = \lim_{\Delta t \to 0} \frac{x(t+\Delta t) - x(t)}{\Delta t} = \frac{dx}{dt} \]

が得られる. つまり, 速度は位置の時間微分である.

4.5.2 3次元の場合

3次元では

\[ \mathbf{r}(t) = (x(t), y(t), z(t)) \]

と書けるから, 速度ベクトルは

\[ \mathbf{v}(t) = \frac{d\mathbf{r}}{dt} = \left( \frac{dx}{dt}, \frac{dy}{dt}, \frac{dz}{dt} \right) \]

となる. 速度は大きさだけでなく向きをもつので, ベクトルとして扱うのが自然である.

4.5.3 基底を使った表現

デカルト座標の基底を用いれば

\[ \mathbf{r}(t) = x(t)\mathbf{e}_x + y(t)\mathbf{e}_y + z(t)\mathbf{e}_z \]

であり,

\[ \frac{d\mathbf{r}}{dt} = \dot{x}\mathbf{e}_x + \dot{y}\mathbf{e}_y + \dot{z}\mathbf{e}_z \]

と書ける. デカルト座標では基底 \(\mathbf{e}_x,\mathbf{e}_y,\mathbf{e}_z\) は時間に依らないので, 成分だけを微分すればよい.

4.5.4 極座標(2次元)

2次元極座標では

\[ \mathbf{r} = r \mathbf{e}_r \]

である. 速度はこれを時間微分して求める.

まず, 積の微分を使うと

\[ \frac{d\mathbf{r}}{dt} = \frac{d}{dt}(r\mathbf{e}_r) = \dot{r}\mathbf{e}_r + r\frac{d\mathbf{e}_r}{dt} \]

となる. ここで重要なのは, 極座標では基底ベクトル \(\mathbf{e}_r\) 自身も時間とともに変化することである.

実際,

\[ \frac{d\mathbf{e}_r}{dt} = \dot{\phi}\mathbf{e}_\phi,\qquad \frac{d\mathbf{e}_\phi}{dt} = -\dot{\phi}\mathbf{e}_r \]

が成り立つ. したがって, 上の式に代入すると

\[ \mathbf{v} = \dot{r}\mathbf{e}_r + r\frac{d\mathbf{e}_r}{dt} = \dot{r}\mathbf{e}_r + r\dot{\phi}\mathbf{e}_\phi \]

を得る.

このように, 極座標での速度の式は天下りではなく, 位置ベクトルを時間微分し, 基底ベクトルの時間変化を追えば導ける.

4.5.5 ポイント

  • 速度は位置の時間微分である
  • 速度はベクトルであり, 向きをもつ
  • 座標系によって成分表示の形は変わる
  • 極座標では基底も時間依存する

4.6 加速度 (教科書2.2章)

4.6.1 定義

加速度は速度の時間微分として

\[ \mathbf{a}(t) = \frac{d\mathbf{v}}{dt} \]

で定義される.

4.6.2 デカルト座標

デカルト座標では基底が時間に依らないので, 速度ベクトルを成分ごとにもう一度時間微分すればよい. したがって

\[ \mathbf{a} = \left( \frac{d^2 x}{dt^2}, \frac{d^2 y}{dt^2}, \frac{d^2 z}{dt^2} \right) \]

となる.

4.6.3 極座標(2次元)

極座標では, すでに見た速度

\[ \mathbf{v} = \dot{r}\mathbf{e}_r + r\dot{\phi}\mathbf{e}_\phi \]

をさらに時間微分すれば加速度が得られる. ただし, ここでは成分だけでなく基底ベクトルも時間変化するので, その微分も一緒に追わなければならない. その結果,

\[ \mathbf{a} = (\ddot{r} - r\dot{\phi}^2)\mathbf{e}_r + \left( \frac{1}{r}\frac{d}{dt}(r^2\dot{\phi}) \right)\mathbf{e}_\phi \]

となる. 極座標では基底ベクトルが時間変化するため, その微分から追加の項が現れる. 第1項には半径方向の加速度と, 円運動に伴う向心的な寄与 \(-r\dot{\phi}^2\) が現れ, 第2項には角度方向の変化が入る. 詳しい導出は, 速度の式を時間微分して各項を整理すれば追うことができる.

4.6.4 ポイント

  • 加速度は速度の時間微分である
  • 極座標では基底の微分が効く
  • そのため, 見かけ上あらたな項が現れる

4.7 第4週: 積分と次元解析

4.8 速度・加速度の積分 (教科書2.3章)

4.8.1 基本関係

速度は位置の時間微分だから,

\[ dx = v(t) dt \]

である. これを積分すると,

\[ x(t) - x(0) = \int_0^t v(t)\, dt \]

を得る. つまり, 速度を時間で積分すると変位が得られる.

4.8.2 加速度との関係

同様に, 加速度は速度の時間微分なので

\[ dv = a(t) dt \]

であり,

\[ v(t) - v(0) = \int_0^t a(t)\, dt \]

となる. 加速度を時間で積分すると速度の変化が得られる.

4.8.3 まとめ

ここで基本式を並べると,

\[ v = \frac{dx}{dt},\qquad a = \frac{dv}{dt} \]

である.

運動学の基本的なつながりは

\[ x \leftrightarrow v \leftrightarrow a \]

と整理できる.

  • 微分は右向きである
  • 積分は左向きである

4.9 微小量の足し合わせとしての積分 (教科書2.4章)

積分は, 微小な量を足し合わせる操作として理解できる. これは運動だけでなく, 長さ, 面積, 体積などの幾何量にも共通している.

2.3 で見た「速度を積分すると変位が得られる」という関係も, 微小な変化を足し合わせるという積分の考え方の一例である.

4.9.1 線積分(距離)

平面内の微小距離は

\[ ds^2 = dx^2 + dy^2 \]

で与えられる.

曲線が媒介変数表示

\[ (x(t), y(t)) \]

で与えられるときは,

\[ s = \int \sqrt{ \left(\frac{dx}{dt}\right)^2 + \left(\frac{dy}{dt}\right)^2 }\,dt \]

と書ける. これは \(s = \int ds\) を具体的に書いたものである.

\[ ds = \sqrt{ \left(\frac{dx}{dt}\right)^2 + \left(\frac{dy}{dt}\right)^2 } dt \]

したがって曲線の長さは, 各瞬間の微小距離を積分して得られる.

4.9.2 面積分

デカルト座標では, 小さな長方形の面積を考えれば, 微小面積は

\[ dA = dx\,dy \]

と書ける. したがって, 面積は

\[ A = \int dA \]

となる.

4.9.3 体積積分

同様に, 小さな直方体の体積を考えれば, 微小体積は

\[ dV = dx\,dy\,dz \]

であり, 体積は

\[ V = \int dV \]

で与えられる.

4.9.4 極座標・球座標での体積要素

座標系を変えると, 微小量の形も変わる. これは, 同じ面積や体積でも, 微小領域の形が座標に応じて変わるからである. たとえば 2 次元極座標では, 微小扇形の面積を考えると

\[ dA = r\,dr\,d\phi \]

となる. また, 3 次元球座標では微小な扇形の立体を考えることで

\[ dV = r^2 \sin\theta \, dr\,d\theta\,d\phi \]

となる. これらの式は, 微小な面積や体積の形を丁寧に考えることで導ける. ここでも「何を積分するか」は座標によって見かけが変わるが, 幾何学的に表している量は同じである.

4.9.5 ポイント

  • 積分は微小量の和である
  • 幾何量も積分で表せる
  • 座標系が変わると微小量の形も変わる

4.10 次元解析 (教科書2.5章)

4.10.1 基本次元

力学では, 量の性質を調べるために次元を用いる. 基本となる次元は

  • 長さ:\(L\)
  • 質量:\(M\)
  • 時間:\(T\)

である.

4.10.2

速度, 力, エネルギーの次元は, それぞれの定義から

\[ [v] = LT^{-1} \]

\[ [F] = MLT^{-2} \]

\[ [E] = ML^2 T^{-2} \]

となる.

4.10.3 一般形

一般の物理量 \(O\)

\[ [O] = M^\alpha L^\beta T^\gamma \]

の形で表せる.

4.10.4 重要原則

  • 異なる次元の量は足せない
  • 単位が合わない式は誤りである

次元解析は, 式がもっともらしいかを確かめるための基本的な検査でもある.

4.10.5 例(単振動)

単振動の角振動数

\[ \omega = \sqrt{\frac{k}{m}} \]

を考える. ここで, ばね定数の次元は

\[ [k] = MT^{-2} \]

である. したがって,

\[ [\omega] = \sqrt{\frac{MT^{-2}}{M}} = T^{-1} \]

となる. この式は時間の逆数としての角振動数の次元と整合している.

4.10.6 ポイント

  • 次元解析は式の誤りを見抜く手段になる
  • スケーリングの理解にも役立つ

4.11 まとめ

この章では, 時刻を導入することで, 位置の記述を運動の記述へ進めた.

  1. 速度は位置の時間微分である
  2. 加速度は速度の時間微分である
  3. 積分は微小量の足し合わせとして理解できる
  4. 次元解析は物理式の整合性を調べる基本手段である

第1章の

\[ df = \nabla f \cdot d\mathbf{r} \]

と, この章の

\[ \frac{d}{dt} f = \mathbf{v} \cdot \nabla f \]

は, 空間の微小変化と時間発展の対応を示している. 第1章で導入した微分の構造が, そのまま運動学の基本式へつながっているのである.