10  質点系と剛体

この章では, 1 個の質点ではなく, 多数の質点からなる系や, 形を保ったまま回転する剛体を扱う. 学期の最後として, ここまで学んだ運動量, 角運動量, エネルギーの考え方が, 多体系でもどう働くかを見る.

10.1 はじめに

現実の物体は, 1 個の質点として扱えないことが多い. しかし, 物体全体の運動は, 重心の運動と, 重心のまわりの回転運動に分けて整理できる. この見方は, 分子, 天体, 剛体など, さまざまな系に共通して現れる.

10.2 この章で扱うこと

  • 質点系の重心運動
  • 剛体の回転
  • 慣性モーメント
  • 平行軸の定理
  • 歳差運動

10.3 第15週: 質点系と剛体

10.4 予習で読む箇所

  • 第8章 8.1-8.5
  • 第8章のまとめ
  • 必要に応じて付録 A.12-A.14

10.5 輪講での読み方

最終週は質点系から剛体への拡張である. 重心分離, 慣性モーメント, 慣性モーメントテンソル, 歳差運動の順に見る.

10.6 質点系 (教科書8.1章)

有限サイズの物体は, 多数の質点の集まりとして記述できる. このとき全運動は

  • 重心の運動
  • 重心まわりの相対運動

に分けられる.

重心は

\[ \mathbf{r}_G = \frac{\sum_i m_i\mathbf{r}_i}{\sum_i m_i} \]

で定義される. 外力の合力だけが重心運動を決めるので, 系全体の並進運動を簡潔に記述できる.

10.7 運動エネルギーの分離 (教科書8.2章)

質点系の運動エネルギーは, 重心の並進運動と重心まわりの運動に分離できる.

\[ K = K_G + K' \]

この分離は, 多体系を理解するうえで基本となる.

10.8 剛体 (教科書8.3章)

剛体とは, 構成する質点どうしの相対位置が変わらない物体である. 剛体の運動は, 並進に加えて回転で特徴づけられる.

10.9 慣性モーメント (教科書8.4章)

回転軸を \(z\) 軸とすると, 角運動量の \(z\) 成分は

\[ L_z = \sum_j m_j r_j^2\omega \equiv I\omega \]

と書ける. ここで \(I\) を慣性モーメントという. これは, 回転のしにくさを表す量である.

回転運動の式は

\[ \frac{dL_z}{dt} = N_z \]

であり, \(I\) が一定なら

\[ I\frac{d^2\phi}{dt^2} = N_z \]

となる.

また, 回転の運動エネルギーは

\[ K = \frac12 I\omega^2 \]

である.

10.10 平行軸の定理 (教科書8.5章)

回転軸が重心軸から距離 \(h\) だけずれているとき, 慣性モーメントは

\[ I = Mh^2 + I_G \]

となる. これを平行軸の定理という.

10.11 歳差運動 (教科書8.6章)

こまのような回転体では, 重力トルクによって回転軸の向きがゆっくり変化する. これが歳差運動である. 十分ゆっくりした歳差では

\[ \Omega = \frac{mgh}{L_{\text{top}}} \]

の形が現れる.

10.11.1 授業での補足

  • 質点系の運動は「重心の運動」と「重心まわりの相対運動」に分けられる. 運動エネルギーも

\[ K=K_G+K' \]

の形で分離できる. - 剛体では, 構成質点の相対位置が変わらない. 回転軸を \(z\) 軸にとると

\[ L_z=\sum_j m_j r_j^2\omega \equiv I\omega \]

であり, \(I\) が慣性モーメントである. - 回転運動の方程式は

\[ \frac{dL_z}{dt}=N_z\qquad\Rightarrow\qquad I\frac{d^2\phi}{dt^2}=N_z \]

であり, 運動エネルギーは

\[ K=\frac12 I\omega^2 \]

である. - 軸が固定されない一般の回転では, 慣性モーメントテンソル

\[ I_{ab}=\left(\sum_j m_j r_j^2\right)\delta_{ab}-\sum_j m_j x_{ja}x_{jb} \]

を導入し,

\[ L_a=\sum_b I_{ab}\omega_b,\qquad K=\frac12\sum_{a,b}\omega_a I_{ab}\omega_b \]

と書く. - コマの歳差運動では, 重力トルクが角運動量の向きをゆっくり変える.

10.11.2 数学補足

本格的には慣性モーメントテンソルが必要になる. ここではまず, 軸によって回りにくさが異なること, そして角運動量とトルクの関係が剛体でも基本になることを押さえたい.

10.11.3 復習で確認したいこと

  • 質点系の運動が重心運動と相対運動に分かれることを言えるか.
  • 慣性モーメントの定義を言えるか.
  • 剛体の回転運動方程式を再現できるか.
  • 歳差運動が「重力トルクと角運動量の向きの変化」で起こると説明できるか.